2020年06月20日

畏敬(awe)の心理学

雄大な自然を見たときに感じる畏敬又は畏怖(awe)の心理について、研究を紹介します。

〇aweとは?

自分の現在の基準の枠を超えた広大さを知覚するときに感じる反応です。aweは、2つの異なったタイプがあります。一つは、審美的経験(aesthetic experiences)から生まれるもので、具体的には、自然の美しさや、スピリチュアルな経験、美徳といったものです。これはpositive aweと定義されています。もう一つは、脅威に対する畏怖で、自然災害や、神の怒りなどが挙げられます。これはnegative aweと定義されています(Takano & Nomura, 2020)。このように、aweは、美学、宗教的な経験などとも結びついている経験です。

重要なのは、aweの中核的要素である広大さが、知覚的な意味と概念的な意味をもっていることです。
前者は、巨大や山々やそびえたつ建物を見たときに、後者は、永遠の意味について瞑想したりするようなときが該当します(Yaden et al., 2019)。


〇aweがもたらす認知の変化とは?
多くは、ポジティブな変数と関連が見られています。

幸福感が高まる(Krause&Hayward, 2015年)

向社会的行動(おもいやり)が増加する(Piff et al., 2015)

攻撃的な態度が減少する(Yang, Yany, Bao, Liu, &Passmore, 2016)

時間の流れが遅く感じる(Rudd et al., 2012)

自己概念が縮小する(small self: Piff et al., 2015)

自己の体の大きさを過小評価する(van Elk, Karinen, Specker, Stamkou, &Baas, 2016)


〇畏敬の神経基盤
恐れ(fear)や楽しみ(amusement)と比較して、positive aweとnegative aweの脳活動が異なるのかを調べた研究があります。
方法として、positive awe、negativie awe, fear とamusementを喚起させる映像を参加者に呈示して、これらのビデオを喚起させました。
このように、感情を引き起こすために、ビデオを用いることは、心理学実験ではよくとられる方法です。
今回の場合は、例えば、negative aweを引き起こすために、火山の噴火のビデオが使用されていました。

結果として、positive aweとnegative aweは両方とも、fearやamusementと比較して、左側の中側頭回(MTG)が非活性であることが示されました。左側のMTGは、既存のスキーマ(枠組み)と起きた出来事を照合する役割を果たすため、aweは「スキーマを解放する」のではないかと筆者は考察しています。

ちょっと小難しいですね…自分が見た現象と既存のイメージを照らし合わせたときに反応する脳が反応しなかったから、畏敬は、既存の枠組みでは捉えられないときに感じるということを、脳科学的に明らかにした研究だということでしょう。

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参考文献
Takano, R., & Nomura, M. (2020). Neural representations of awe: Distinguishing common and distinct neural mechanisms.
Keltner, D., & Haidt, J. (2003). Approaching awe, a moral, spiritual, and aesthetic emotion. Cognition and emotion, 17(2), 297-314.
Yaden, D. B., Kaufman, S. B., Hyde, E., Chirico, A., Gaggioli, A., Zhang, J. W., & Keltner, D. (2019). The development of the Awe Experience Scale (AWE-S): A multifactorial measure for a complex emotion. The journal of positive psychology, 14(4), 474-488.
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2020年06月11日

「○○限定」の心理

○○限定!
なんていう言葉には、つい、ときめいてしまいますよね。

そんな魅惑のワードに惹かれて (騙され?!)、得した気分になったり、不要なモノを買って損した気分になったりしたことは、誰しもあるように思います。

「産地限定」
「話題のスイーツ数量限定」
「季節限定の日本酒 」など

このような「限定販売」の表示が、購買意欲を高めることを検証した研究は数多くあります。

以下に列挙する研究は、どれも当たり前なことですが、その当たり前を研究で実証することも一つ必要なことなので、ご紹介します。

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〇食料品店のチラシに数量限定に関する情報を記載した場合に,その商品の売り上げが上昇した(布井・中嶋・吉川, 2013; Inman, Peter, & Raghubir, 1997)。

〇ファストフードレストランにおける商品の販売期間を「本日のみ」に限定した場合と,「年内」に限定した場合における商品売り上げの違いについて検討した結果,販売期間を「本日のみ」に限定した場合の売り上げが,「年内」に限定した場合と比べて上昇した(布井・中嶋・吉川, 2013; Inman, Peter, & Raghubir, 1997; Brannon & Brock, 2001)。

〇実際に市場に流通している通常品と期間限定品のいずれかを選択させる模擬購買実験を行った結果,通常品よりも期間限定品のほうが選択されやすくなった(布井・中嶋・吉川, 2013;三村,2009)。

また、限定ラベルの種類が、購買意欲に与える影響を調べた研究では、「期間限定」は、「地域限定」や「数量限定」と書かれた商品よりも選択される確率が高かった(布井・中嶋・吉川, 2013)という結果もあります。ただし、この結果の理由付けは難しく、筆者は、参加者の特性(経済力や出身地など)が影響したのではないかと考察しています。

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ではなぜ人は、限定商品に弱いのかというと、鈴木(2008・2017)は、リアクタンス理論という心理学的理論を用いて、理由を考察しています。

リアクタンス理論は「失われた自由を回復しようとする、または失われそうな自由を確保しようとする動機づけ状態」と定義されます(Brehm, 1966, p.16))。この理論を、限定商品の購買状況に適用すると、(数量・地域・期間・チャネル等の)限定商品は、企業が販売を限定することによって、消費者は購入する/購入しないという選択が自由にできない状況にあり、選択の自由を失った(または失われそうな)消費者は、失った(または失われそうな)選択肢をより魅力的に評価するというもの(鈴木,2017)だそうです。


個人的には、あまり腑に落ちる理論ではありませんでした。
筆者は、限定=選択の自由が失われた、と捉えていますが、限定商品を買うか買わないかはこちらの自由ですし、
限定商品を見て、不自由或いは不快に感じたこともないからです。


限定商品で購買意欲がなぜ上がるのかは未だ十分に調べられていませんが、
恐らく、こうした知見はマーケティングで生かされると思うので、その要因メカニズムを明らかにするよりは、機能面としての研究結果の方が需要があるのかもしれません。

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個人的には、「期間限定」や「季節限定」などは、時間が制約されているので、焦って、判断能力が鈍るのではないか、という考えが一つあります。(どこかで、時間が制約されると判断能力が低下するという研究を見た覚えがあるのですが…)「地域限定」もその地域に住んでいればいつでも買えるので購買意欲は高まらないでしょうが、旅行で訪れているだけで、いずれその地域を離れなければいけないのであれば、時間が制約されることになります。

また限定される商品が、何であるかも結果に影響を与えると考えられます。
ブランド品である場合、希少性が高まるという点で、一部の富裕層の購買意欲に影響を与えるかもしれません。ただし、ブランド店が限定商品を販売すると、長期的にはブランドの価値が下がるという結果も出ています(Balachander & Stock, 2009)。
また普段の商品と値段が変わらなければ、限定品を買った方がお得に感じるかもしれません。


余談ですが、インドネシアでは、野生の鳥を捕獲して、不法に貿易する問題が発生しており、生物の喪失が深刻であるそうです(参考:日経サイエンス)。その背景として、愛好家の希少種のニーズがあるそうです。こうした社会問題も、希少性という点で、心理学的側面から研究・考察できそうです。

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引用文献・参考文献
Balachander, S. & Stock, A. (2009). Limited Edition Products: When and When Not to Offer
Them. Marketing Science, 28(2), 336-355.
布井雅人, 中嶋智史, & 吉川左紀子. (2013). 限定ラベルが商品魅力・選択に及ぼす影響. 認知心理学研究, 11(1), 43-50.
鈴木寛. (2017). 限定商品の国際比較-企業要因・消費者要因を中心に. 経営論集, 89, 45-56.
別冊日経サイエンス226「動物のサイエンス,行動,進化,共存への模索」
posted by アリシス at 21:43| Comment(2) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月31日

音楽と心理学

音楽を聴いて、気分を落ち着かせたり、高揚させたりすることがあると思います。
今回は、音楽と感情との関連について、先行研究を調べてみました。

音楽と感情を研究する上で、難しいと思われる点は、音楽がメローディー・リズム・ハーモニーによって構成されるものであり、さらに歌となると、歌詞・歌手の歌声・歌い方など、様々な構成要素が影響しあって、聴いている人の感情を動かすので、どの要因が影響しているのかが一概に言えない点です。さらに、調査協力者の心理的な状態や曲の好みなど他の要因も絡んできます。

しかしこれは、心理学全般に言えることで、色んな要素が複雑に絡み合ってある現象が起きているわけで、それを研究するためには、要因を細分化して検討したり、何かと何かの相互作用を検討したりしていくしかないのです。

それでは、先行研究の結果を列挙していきます。

1)クラシック音楽の大半は、睡眠導入効果がある
クラシック音楽を聴くと、脳波にθ波の増加が見られることから、覚醒(対義語は睡眠)が低下することが示唆されています。つまりは眠くなるということです。またクラッシック音楽を聴くと、脳波がa波の1/f型のゆらぎを示すそうで、1/f型のゆらぎは、「ここちよさ」の指標として用いられています。
演奏会で寝てしまうのは、仕方ないことだったんですね(笑)

2)音量が突然変化するとき、Chill反応(背中がぞくぞくする反応)が起こりやすいSloboda, 1991)
Chill反応は感動体験とも結びついている生理的反応です。
例えば、ドラマやアニメのBGMが変わるきに、身震いした経験はあるでしょうか。こうした反応を指します。
また声優はセリフの中で音量変化を行っているように思います。セリフ読みで「・・・だよね!(音量多い)でもさ・・・(音量少ない)、やっぱり・・・・(音量多い)」といった感じで、一文、一文ごとに声量を変えているので、セリフを聴いていると心が動かされる(それだけではないですが)気がしますね。

3)音楽が盛り上がるときに、ドーパミンが放出される(Salimpoor, et al., 2011)
個人的に面白い結果でした。音楽を聴きながら勉強をしている人は、この効果を得ているのでしょう。

4)聴く回数が増えると、快感情が増加する (Bradley,1971;Heingartner&Hall,1974;
Krugman,1943;Mull,1957;Zajonc,1968)

同じ音楽を繰り返し提示すると、その音楽への快感情が増加するそうです。

5)悲しいときに悲しい音楽を聴くと、悲しみが低下する(松本,2002)
松本(2002)は、悲しい時に悲しい音楽を聴くことは、感情を調節する方法であることを示唆しています。

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音が感情に影響を与えていることは様々な研究から言われています。今後も発展していく分野だと思うので、個人的に気になっています。音楽療法も気になります。

文献:
松井琴世, 河合淳子, 澤村貫太, 小原依子, & 松本和雄. (2003). 音楽刺激による生体反応に関する生理・心理学的研究. 臨床教育心理学研究, 29(1), 43-57.
寺澤洋子, 星-芝玲子, 柴山拓郎, 大村英史, 古川聖, 牧野昭二, & 岡ノ谷一夫. (2013). 身体機能の統合による音楽情動コミュニケーションモデル. 認知科学, 20(1), 112-129.
高橋幸子, 山本賢司, 松浦信典, 伊賀富栄, 志水哲雄, & 白倉克之. (1999). 音楽聴取が情動に与える変化について: 音楽聴取前後の POMS スコアの変化を中心として. 心身医学, 39(2), 167-175.
榊原彩子. (1996). 音楽の繰り返し聴取が快感情に及ぼす影響. 教育心理学研究, 44(1), 92-101.
松本じゅん子. (2002). 音楽の気分誘導効果に関する実証的研究. 教育心理学研究, 50(1), 23-32.
posted by アリシス at 05:26| Comment(5) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする